2012年4月6日金曜日

Super Sonic China:Li Jianhong(李剣鴻)インタビュー


昨年12月、PSFレコードからのアルバムリリースに合わせ、初来日を果たし、東京、大阪の2ヶ所で4度のライブを行った李剣鴻。
ツアーから2ヶ月たった今、あらためて彼の音楽観、2pi音楽フェスについて、日本でのライブの感想などを聞いてみた。

1.あなたのライブは即興が中心ですが、ライブの際どの様に音楽を構成していっているのですか。演奏の間、観客の反応や会場の雰囲気があなたの演奏に影響しますか。
だいたいライブの時に前もって考えを練ってから演奏するという事は少なくて、ライブ会場に着いて、設備や会場の雰囲気をみて、大体の演奏時間がわかってから一定の方向性を考え、そして舞台に上がって即興演奏をする。観客や会場の環境がライブ演奏に影響することは少しはあるけど、基本的にはそんなに問題にはならない。

2.ギターでの即興ライブと、その他の、例えば音源ボックス� ��コンピュータでノイズをするのとでは感情や思考の上で何か違う点や共通点がありますか?
ギターでの演奏の方が思うままに演奏できる。演奏中に頭にかけめぐるアイディアやサウンドがすぐに反映出来るしね。音源ボックスや、以前やったテレビ画面の信号をひろって音を出す器材でノイズをする場合は、現場で思わぬハプニングが起きてしまうことがある。例えば'04年にパリでライブをやった時などは、ライブが始まってもテレビ画面の信号をひろえなかったんだ。当時コンピュータのソフトは"Live"しか使っていなかったんだけど、ライブの前に用意しておいた素材をつないだものに頼らざるをえず、即興的な要素が少なすぎて、自分ではあまり満足いくライブとはならなかったよ。

3.コンピュ� �タで曲を作る事は多いですか。コンピュータを表現する道具として、どの様にとらえていますか?表現する上で限界があるものと考えていますか。それとも無限の可能性のあるものととらえていますか。それは何故ですか。
'03年の後半から'04年にかけてコンピュータを使っての演奏をしていた時期があるんだけど、今は基本的にはコンピュータを使うライブはしていない。今コンピュータを使うことといったらレコーディングの時やマスタリングの時だね。ライブする際にコンピュータのソフトを使って演奏するのとハード機材を使って演奏するのとでのメリットとデメリットはそれぞれにあると思う。うまく使用すれば、両方に限りなく表現方法はあると思うよ。

4.創作する時のアイディアはどこか� �、どのような状況の中で出てきますか。
例えば「大劇文」、「RTV-702」、「A BRIEF HISTORY OF TIME」の場合。

時にはある一定の時期の総括として。例えば「RTV-702」はその当時テレビ画面の信号を使ってライブをしていた。それで、それをアルバムにして記録として残したいと思ったんだ。あとは、時間の積み重ねとして。例えば「A BRIEF HISTORY OF TIME」。これはこの時期自分はずっとギターである雰囲気や幻覚的な音を表現したいと思っていて、絶えずそのアイディアを実現しようとしていた。そしてそれを記録した。「大劇文」もそういう感じだね。


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5.ロックとノイズを対立するものと見なすアーティストもいますが、あなた自身は「ノイズ」と「ロック」との関係をどう見ていますか。
どういう関係かとは考えた事はないな。けれども僕はロックを対立するものとは見なしていないよ。自分自身ずっと6,70年代のロックが好きだしね。僕は感情に満ちあふれていて、本当に気持ちを体現している音楽ならば何でも聴くよ。ノイズやロックだって気持ちを体現した一種の形式にしかすぎないからね。ただ前者は形式上少し極端に見えるっていうだけかな。もしきみが"ノイズ"という形式をもっと完璧にする事ができて、徹底的に自分の気持ちを体現するものと思うのならば、� ��イズを選択して表現するべきだね。

6.あなたの1stソロアルバムは「在開始之前、自由交談」といいますが、あなたの音楽表現の根本にあるモチベーションは「自由」ですか?何ですか?
このアルバムを作る際の動機とか何かといったことは全然考えたことはないよ。ただこういったアイディアが出てきて、それでその日の午後に即興で録音した、これはそういったアルバムだよ。

7.あなたの音楽表現における最大の原動力となる感情は何ですか。
気分。

8.「ノイズ」に惹かれる理由は何ですか。「ノイズ」ミュージックの魅力とは何ですか。あなたにとって「ノイズ」とは何ですか。
理由?多分それはノイズが比較的自由に自分の気持ち� �表現出来る一種の音楽形式だからじゃないかな。あるいは、将来更に自由な表現形式を探し出せれば僕はこの理由を放棄するだろうね。僕にとって"ノイズ"とは一種の音楽にしかすぎない。普段お茶を飲んだりご飯を食べたりするのと一緒で、特別に強調する必要もないものだしわざと回避するものでもないものだよ。

9.あなたは以前ロックバンドをやっていましたが、どのような経過から「即興音楽」や「ノイズ」ミュージックをやりはじめたのですか。
いろいろと認識していく過程の中でかな。中国国内で今"ノイズ"をやっている人たちは以前ロックをやっていた。Junkyとか王凡とかね。大体が始めはロックに接していて、だんだんと更に自分に合った音楽形式が存在することを発見していく。僕� ��そうだった。ソニック・ユースから始まって、それからメルツバウ、カーコウスキー、灰野敬二など更に自分を刺激する音楽を聴いた。そうやって自然に創作する上でも変化が現れ始めたんだ。

10.中国のミュージックシーンを見ても杭州というところで突然あなたのような実験音楽をやるアーティストが出てきたのは意外な気がします。あなたはどうやって杭州で実験(ノイズ)音楽の創作をやりはじめたのですか。その動機など教えてください。
実は杭州は芸術的な雰囲気のとても満ちている都市なんだ。絵画芸術とかビデオアート方面は強いよ。ただ音楽方面だけは良いライブや交流する環境がないことがあって比較的弱いんだ。けれども創作する上ではとてもいい街だよ。この街は他の都市と違って落ち着くところだからね。この街は僕の性格や生活リズムにあっているんだ。だからここで創作活動をすることはとても自然なことなんだよね。


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11.あなたは杭州という環境が好きなんですよね。杭州の環境はあなたの音楽にどんな影響を与えていますか。杭州という場所とあなたの音楽との関連性について教えてください。
うん、僕は杭州の山水が好きだ。ここはとても中国的で伝統文化の趣きのある街なんだ。あと、僕は自分にプレッシャーをかけることが好きじゃないし、また仕事人間にもなりたくはない。どんな関連性があるかということについては考えたことはないけれど、それを考えたところで何の意義もない。とっくに生活の中で体現しているからね。

12.普段はどんな生活を送っていますか。
寝るのが好き。自分が好きな料理をつくるのが� �き。昼間は風景を楽しみ、あちこち歩き回り、まぬけに過ごしている。夜には音楽を作っている。

13.去年あなたは4回目の2pi音楽フェスを開催しましたが、2pi音楽フェスを開催しはじめた動機は何ですか。
始めた最初はただ杭州と上海の新音楽の交流を一回しようとしただけだった。なぜなら当時の杭州と上海はちょうど以前と違った新しい音楽が始まったばかりの時だったから、一緒にライブをやったらいいんじゃないかと思ったんだ。その後、2年目は中国国内の前衛ミュージシャンを呼んで参加してもらおうと考えた。毎年一回みんなの交流の機会があれば更にいいんじゃないかって思って。

14.2pi音楽フェスに参加している海外のアーティストは自分で参加しに来ているのです か。それともあなたが誘って参加しているのですか。彼らはどの様にして2pi音楽フェスの存在を知ったのでしょうか。
自分でEメールを書いて参加したいと言ってくる人もいる。例えば中国にライブに来る時に、たまたま2pi音楽フェスと日程が合いそうだと僕に連絡をくれる。あるいはマルキドの様に友達などもいる。
海外のアーティストに関しては積極的に連絡をとっているケースは少ないんだ。というのも2pi音楽フェスは国や大きな会社のスポンサーの協賛を得ていないからね。基本的には友人たちの助けによっている。資金繰りがきびしく、海外のアーティストに航空チケットの費用を払うことが出来ない。彼らをはるばる遠くから自費で来てもらって一回だけライブするというのも申し訳ないと思っているんだ。< br/>2pi音楽フェスは確かに以前よりも多くの人の知るところとなった。2pi音楽フェスの存在は大部分はインターネットで知ったんだと思う。姚大鈞や李如一、顔峻もネット上で熱心に無償で宣伝したりこの音楽フェスのことを言ってくれたりしている。今回カーコウスキーまでもが彼の知り合いの海外アーティストにたくさんメールを送ってくれた。2pi音楽フェスの文書での宣伝にはとても限界がある。


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15.2pi音楽フェスは今、中国大陸において前衛音楽の代表的なフェスになってきていますが、主催者として今後2pi音楽フェスはどうしていこうと考えていますか。
特にどうしようとかいうことは計画していない。開催が一年なら一年。毎年参加するのは国内の前衛アーティストが中心にはなると思う。2piレコードも含めて、コラボレーションやコンピレーション・アルバム以外には、基本的には海外ミュージシャンは考えていない。一番夢なのは、多くのスポンサーについてもらって、ゆとりのあるフェスティバルを一度開催してみたい。毎回やりくりがつかなくて、今回みたいに姚大鈞、江立威や蔡欣圜など何人� ��の台湾のアーティストは宿泊費まで自分で払っていて、それに何人かのアーティストにいたっては僕は今になっても出演料を払っていなくて申し訳ない。だから音楽フェスをどう発展していこうかというのはしばらく置いておいて、ゆとりのある音楽フェスを開催できるようにしたいというのが実際のところなんだ。

16.あなたは最近メタルをよく聴いているそうですが、それも含めて最近どんな音楽を好んで聴いていますか。どのアーティストのどんなアルバムを聴いていますか。
はは。以前学校で聴いた音楽。懐かしいものだね。僕が聴いているのは色々だよ。最近比較的多く聴いているのは6,70年代のサイケデリックロックとジャズ。あとはとってもすばらしい中国七弦琴のアルバム、8CD、や はり七弦琴の大家の演奏だよ。伝統音楽シーンでは"老八張"と言われている。今ちょうど聴いているのがその中の一枚なんだ。

17.あなたのアルバムは日本でリリースされましたが、灰野敬二等日本のアーティストを連想させるといったレビューを時々見かけます。あなたはそういった日本のアーティストの曲をよく聴きますか。最初に聴いたのはいつですか?
だいぶ前にそれらの音楽を聴いたよ。僕がまだレコード店で店員として働いていた時に偶然聴いたんだ。海賊版だった。初めて聴いた時には驚いたよ。
灰野敬二はすばらしいミュージシャンだ。彼はとてもつよい影響力と凝集した精神力を持っている。早い時期から確かに僕に啓発を与えてくれた。けれども僕が啓発されたのは全く彼一人� �止まらない。カーコウスキーや中国七弦琴の大家の呉景略、管平湖などといった人、あるいはデレク・ベイリー等ジャズミュージシャン達も僕を啓発してくれた。だからずっと僕の音楽と灰野敬二とを関連づけているのは無責任だよ。

18.去年日本でライブをされましたが、初めて日本でライブをした感想は? 日本でのライブツアーで何か印象に残ったことはありますか。 日本でのライブは中国でやるライブとどういった点で違いますか。
とてもよかったよ。僕が想像していたのよりもずっとよかった。食べ物の値段がとても高い事以外はとてもよかった。印象深かったのは日本は大量のCDと豊富な楽器や設備があること。あと印象深かったのは日本の女の子。寒い日など僕は2枚ズボンを穿いていたのに、彼女らといったらスカートやショートパンツを穿いて登校したり、出勤したりしているんだ。おかしかったよ。中国なら家の人が自分の子ども達がそんな格好をしているのを見たらあまりにかわいそうで死んでしまうよ� ��はは。
ライブもだいたいあんな感じなんじゃないかな。ライブの場所や人数があんな感じなら、世界中のどこの国でもだいたい同じ様な感じなんじゃないかな。こういった類の音楽のライブはロックのライブのように跳んだりはねたりというものでもないしね。


19.日本の観客に対してどんな印象をもちましたか。中国の観客とどんな違いがありますか。
同じ様なものだよ。多分この様な音楽の類と関係あるんじゃないかな

20.日本のライブでは三回日本のアーティストとセッションしましたが、それぞれどんな感想を持ちましたか。
一日目は東京のShowBoatで羽野昌二とのセッションでまあまあよかった。彼のドラムはすごいね。けれど感覚としてはもしもう少し2人でやる時間があればもっとよくなると思う。彼とのセッションの後は、彼と成田宗広と僕との三人で即興演奏をやって、それはとてもリラックスできた。けれども二日目のUFO CLUBでのセッションはとてもよくなかった。というのも自分自身の問題で、手が引きつけを起こして正常に演奏できる状態じゃなかったんだ。その対処に追われて完全に演奏する楽しみをなくしていた。三回目は10との大阪ココルームでのセッションで悪くなかった。なぜなら僕たちは友人だったし、お互いに相手の音楽について理解していたからね。もし可能ならば、今年2piレコードからこの時のライブの音源をリリースしたいと思っているんだ。

21.何人かの日本のアーティストのライブを見たり交流したりしたと思いますが、日本のノイズミュージックシーン、前衛音楽シーンについてどんな感想を持ちましたか。
実際のところ、今回のツアーで接触したのは純粋なノイズミュージックとはいえなくて� ��自分の演奏も含めて大阪ベアーズでのライブを除いたそのほかの三カ所でのライブは純粋なノイズではなかった。今回は基本的にはサイケデリック+ノイズ、インプロビゼーションがが中心だった。だから全体的な感想は言えないけれども、ただ感じたのは日本のアーティストたちはとても個人的なものと、それから音楽の元もとの味を強調するなと思った。この二点がとてもよかった。

22.日本に滞在中何か面白いエピソードがあったら教えてください。
特別なことは特にないけれども、日本はとてもHighなレコード店と楽器店が多くて気持ちがいい。一軒本屋で鈴木大拙の禅の本とAVビデオが一緒に売られていて面白かった。

23.あなたからみた今の中国の前衛・実験音楽シーンの状� �を教えてください。海外や日本のシーンとどういった違いがありますか。
僕は中国の前衛・実験音楽シーンは今、成熟期にあると思う。フィルターにかけられている時期というか。2年前は比較的盛んだったけれども、何年かの発展期を経て多くの音楽形式も存在するようになった。ミュージシャン達が選ぶ表現の形式も段々と細分化してきた。けれども今はみんながそれぞれ勝手にやっているという感じだ。なぜなら音楽形式が細分化してきて、2年前の様な頻繁な交流が少なくなってきたからだ。日本でマルキドが話していたのは、日本の前衛音楽はそれぞれの領域以前に多くの創作上のコラボレーションがあるということだ。これは中国ではほとんどない。例えばサウンドアート、電子音楽、ノイズミュージックがお 互いにぶつかり火花を散らして合作するということはない。僕は日本にもこういった時期はあったと思う。今の日本は実際すでに以前のメルツバウやマゾンナといったノイズのライブを聴くことも少なくなってしまった。
あるいはこれは重要な時期なのかもしれない。この時期を過ぎれば、中国の前衛音楽が一体本当に隆盛の始まりなのか停滞なのか衰退なのかがはっきりするだろう。

24.将来の計画は?
特に大きな計画などはない。やりたいことを思いついたらそれをやる。

25.あなたの生活の中で一番大事なものは何ですか。
気持ちよく過ごすこと。


26.最後に、日本のみなさんに杭州について紹介をして下さい。
とてもきれいな都市。もしあなたが風景を観光して回るのが好きならば、杭州に来てまちがいはないよ。けれども必ずある程度の期間を過ごしてほしい。杭州を象徴する「西湖」を遊覧すれば他の都市では味わえない情緒を味わえるよ。

李剣鴻(リー・ジェンホン)
'75年生まれ。杭州で活動するノイズ/アヴァンギャルド・アーティスト。インディーズレーベル「2pi records」オーナーであり、また毎年行われている"2pi音楽フェスティバル"を主催している。黄錦とのユニット"D!O!D!O!D!"の1stアルバム「Ghost Temple」は、去年11月、日本のPSF Recordsよりリリースされた。



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