Ocean & Love
今年の11月に行われる米大統領選挙。再選を目指す民主党のオバマ大統領と一騎打ちとなる候補を選ぶ共和党の予備選挙が、1月3日のアイオワ州を皮切りに本格的に始まりました。予備選とは、党の大統領候補を選ぶために州ごとに開かれる党員集会を指します。その振出しとなるのがアイオワ州で、最も注目を集める集会のひとつです。3月6日はスーパーチューズデーと呼ばれ、マサチューセッツ州、バージニア州など全米10州で一斉の党員集会が行われます。そして6月5日、モンタナ州、ニューメキシコ州、サウス・ダコタ州で行われる最終日まで、5ヶ月間かけて全ての州で行われます。
各州の党員集会では、党員たちは各候補者に直接投票するのではなく、8月の党大会で実際に候補者に直接投票する代議員を選出し ます。これらの代議員は、あらかじめ党大会でどの候補に投票するか宣言しているので、各州の党員集会では、候補者たちは自分を支持してくれる代議員をより多く獲得することを目指します。最終的に、党大会の代議員による投票で、過半数を獲得した候補が、正式に大統領候補として指名されるというわけです。
現在、共和党予備選のレースを走っている主な候補者は、ミット・ロムニー氏(元マサチューセッツ州知事)、リック・サントーラム氏(元ペンシルバニア州選出上院議員)、ニュート・ギングリッチ氏(元連邦議会下院議長)、そしてロン・ポール氏(テキサス州選出下院議員)の4名です。他にも、特定の州だけで予備選に参加する候補者も数名いますが、獲得代議員数が少ないので、有力な候補とは見なされてい� �せん。
すでに行われた党員集会では、ニュー・ハンプシャー州、ネバダ州、フロリダ州ではロムニー氏、ミズーリ州、コロラド州、ミネソタ州、アイオワ州ではサントーラム氏、サウス・カロライナ州ではギングリッチ氏が、それぞれ代議員の獲得数で一位となり勝利しています。
それぞれの代議員獲得数は、2月8日の時点で、ロムニー氏(112人)、サントーラム氏(72人)、ギングリッチ氏(32人)、ポール氏(9人)となっています。党大会で指名を勝ち取るには1144人の代議員を獲得しなければなりませんので、まだ勝敗の行方は分かりません。
さて、4名の候補者の中で、まだ一度も勝利をしていない候補がロン・ポール氏です。ミネソタ州やニューハンプシャー州では得票数2位、アイオワ州、コロラ ド州などでは3位につけています。獲得代議員数は少ないのですが、他の3人の有力候補の勝るとも劣らぬ精力的な選挙戦を繰り広げています。
そんな4番手のポール氏について、なぜ書こうと思ったのかといえば、それは、私個人にとっては4人の候補の中でただ一人耳を傾けるに値する人物だからであり、そして、アメリカの国政の場で活躍する政治家の中で私の知る限りただ一人、真実に迫ることのできる政治家だからです。
今回のブログでは、その「真実に迫ることができる政治家」とはどういうことか、これまでの政治家としての歩み、政治思想など、ロン・ポール氏の魅力について満載した記事を書いていきたいと思います。
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2008年の共和党予備選
私がポール議員に注目するようになったきっかけは、今から約5年前にさかのぼります。2008年の大統領選挙に向けて2007〜08年に行われていた、共和党予備選の各候補者による討論会です。
実は、ポール氏はこれまでにも過去にに二度、大統領選挙に立候補しており、今回の立候補は3度目になります。1986年にはリバタリアン・パーティーから、2008年には共和党から立候補しました。
2008年の共和党予備選には、ポール氏の他、ジョン・マケイン氏、マイク・ハカビー氏、ミット・ロムニー氏、元ニューヨ−ク市長ジュリアーニ氏などが立候補していました。予備選は、圧倒的な優位に立つマケイン氏とそれを追うハカビー氏の争いとなり、2008年3月までには他の候補者は全て撤退していきました。ポール氏� �、最初の党員集会であるアイオワ州で7%の票を獲得して第5位発進し、その後の各州における党員選挙で2〜5位をキープしました。ネバダ州予備選ではマケイン候補を抑えて第2位という健闘も見せました。
覚えておられる読者の皆さんも多いと思いますが、前回の大統領選挙では、2期にわたるブッシュ政権が強行して泥沼に陥り財政をひっ迫させていたイラク戦争と、外交・軍事政策が大きな争点の一つとなっていました。「イラク戦争で大きな犠牲を払いアメリカ経済は困窮している」という激しい世論の批判に対し、各候補者たちは、ブッシュ政権の政策を必死に防護していました。2008年1月24日の討論会において、マケイン候補は、次のように述べ、アメリカの軍事政策を肯定しています。
We are succeeding in Iraq, and every indicator is that, and we will reduce casualties and gradually eliminate them. Anybody who doesn't understand that it's not American presence, it's American casualties. We have American troops all over the world today and nobody complains about it because we're defending freedom. (2008年1月24日New York Times)「我々はイラク戦争に勝利しつつあります。犠牲者の数は減っていくと予想され、また徐々に無くしていかなければなりません。懸念すべきは犠牲者の問題であり、アメリカの軍事政策の問題ではないのです。今日アメリカ軍は世界中に展開していますが、それに不満も持つアメリカ人はいないでしょう。なぜなら、我々は自由を守っているからです」(筆者仮訳)
イラク戦争は正しかったのか?「イラク戦争は正しかったのか。犠牲の血と予算に見合う価値があったか?」
討論会では、核心をつく質問が出されていました。ポール氏を除く全ての候補が、軒並み「正しかった。その価値はあった。なぜなら、われわれの自由と民主主義を脅かすテロリストたちに勝利しなければならないからだ」という ような解答に終始していました。
その中で、ただ一人、イラク戦争は間違っていたと断言したのがポール氏です。その発言を見てみましょう。
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It was a very bad idea, and it wasn't worth it. (Cheers, applause.) The al Qaeda wasn't there then; they're there now. There were no weapons of mass destruction. Had nothing to do with 9/11. There was no aggression. This decision on policy was made in 1998 under the previous administration because they called for the removal of Saddam Hussein. It wasn't worth it, and it's a sad story because we started that war and we should never be a country that starts war needlessly.「イラク戦争は大きな間違いでした。その価値はありませんでした(会場から拍手)。もともとアルカイダはイラクにいたわけではないのです。大量破壊兵器も存在しませんでした。第一、イラクは911とは何の関連性もないことです。イラクによる侵略行為があったのでもありません。イラク攻撃は、1998年に当時の政権によって作られた政策−つまり、サダム・フセインを失脚させること―に基づいているのです。無意味な戦争でした。我々は必要もない戦争を始めるべきではなかったのです。だが、はじめてしまったのだから遺憾としか言いようがありません。」(筆者仮訳)
真実に迫ること=絶対的タブー
アメリカ政治においては、外交・軍事政策を声高らかに批判することが難しいという現実があります。アメリカが最強の軍事力を保持し、世界中に基地を保有し、世界の警察の役割を担っているのは、国家の防衛であると同時に、自由と民主主義を守るためであり、その自由と民主主義を脅かすいかなる力に対しても容赦はしない、それがいわばアメリカの外交・軍事政策の大義名分です。それに異を唱えるということは、国家への忠誠心がないということ、自由と民主主義への反逆であると見なされてしまうのです。
特に911以降は、テロ対策の強化が図られ、「国家への忠誠」が「言論の自由」を凌駕し、うっかり外交・軍事政策への批判を口にすることすらはばかられるような風潮が広がりました。911はアルカイダによる自由と� ��主主義への挑戦であり、テロ行為への報復は当然である、これは自由と民主主義のための正義の戦争であるというのがアメリカ政府の揺るがぬ根幹です。
それ故、当然浮かんできてよさそうな疑問−つまり、何が、彼らをしてテロ行為を起こさせたのか?その原因は何だったのか?ということについての議論は、不思議なことにほとんどといってよいほど聞かれなかったのです。主流メディアでもそのような議論を取り上げることはほとんどなかったと記憶しています。
一方のアメリカを除く国際社会では、「アメリカの外交政策、特に中東への介入政策が、中東における反米感情を招いてきたのではないか、だからアメリカは自らの外交政策を見直すべきではないか」という論評も少なからず見られましたし、そ� ��いう率直な感想を抱いた人もアメリカ以外の国々には多かったのではないでしょうか。
いずれにしても、相手に攻撃された理由について冷静に客観的に分析し検討すること−つまり"真実に迫ること"−は、国家として、政治家として、国民として、あらゆるレベルで行われて当然のことのはずです。
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しかし、アメリカでは、この"真実について迫ること"は、自国の政策がテロ攻撃を誘発した結果、911で何千人もの犠牲者を生んだという見方に繋がるためか、暗黙のうちに絶対的タブーとされました。うっかり口にしようものなら、すぐさま非国民のレッテルを貼られてしまうような風潮が渦まいたのです。そして、目には目をで、テロとの戦いは「自由と民主主義を守るためのテロとの戦い」が国是となり、主流メディアもこぞって対テロ戦争を持ち上げました。誰も政府の軍事政策を批判をする者はなく、ましてや、政治家がそのような発言をすることは政治的自殺行為に等しかったわけです。
タブーを打ち破ったロン・ポール
そんな中、タブーを打ち破り、たった一人、平然と「我々が中東への介入が、反感を買ったのだ」と言い放った政治家がポール氏でした。2007年5月15日にサウスカロライナ州で行われた共和党予備選候補者によるテレビ討論会での発言から見てみましょう。(前文を読みたい方はこちらをご覧ください。Republican Debate Transcript, South Carolina)
Non-intervention was a major contributing factor. Have you ever read the reasons they attacked us? They attacked us because we've been over there; we've been bombing Iraq for 10 years. We've been in the Middle East.「不介入政策は、(国防に)大きく寄与してきたのです。テロリストたちがわれわれを攻撃した理由(声明文)を読んだことがありますか?彼らが攻撃してきた理由は、アメリカが彼らの国へ介入し、イラクを10年間も攻撃してきたからなのです。つまり、中東におけるアメリカの介入政策ゆえなのです。」(筆者仮訳)
討論中の対話の一部を抜粋したため、分かりにくいところがありますので少し解説を加えます。ポール氏は、アメリカ歴代の共和党保守派は、外交では不介入政策をとってきたことを指摘し、不介入政策は合衆国憲法の精神に基づくよい政策であり、国防に貢献してきたのだと言っています。それが、いつの頃からか共和党は自ずからの理念を喪失してしまい、中東や世界中の国々や地域の問題に首を突 っ込むようになってしまった。1990年代のイラク攻撃で何万人もの民間人を犠牲にしたことも含め、それらの介入が反米感情を生み出し敵を作ってしまったのだと。今こそ憲法の精神に立ち返り他国への介入を止めるべきである、と主張したのです。
討論会で、ポール氏のこの発言を隣で聞いていたルディ・ジュリアーニ候補が、信じられないという表情で反発しました。911のテロ攻撃を受けて陣頭指揮をとった元ニューヨーク市長として、アメリカの外交政策が911を招いたなどというのは尋常ではない発言だ、撤回すべきだと激しい不快感を示したのです。それに対し、ポール氏は毅然とした態度を崩さすに、次のように述べました。
If we think that we can do what we want around the world and not incite hatred, then we have a problem. They don't come here to attack us because we're rich and we're free. They come and they attack us because we're over there. I mean, what would we think if we were –if other foreign countries were doing that to us?"「もし我々が、世界中でやりたい放題のことをやっても反感を買うことはないなどと考えるなら、我々の方に問題があります。彼らは、我々が豊かで自由だから攻撃してきたのではないのです。我々が、彼らの国に介入していたから攻撃してきたのです。もし、他の国が我々に同じことをしたらどう思うでしょうか?」(筆者仮訳)
アメリカ人の中にも、他国への介入政策、とりわけイスラエルに肩入れした中東政策が、アメリカへの反発を招いており、それが911に繋がったのではと考える人々は少なからずいましたが、これまで誰も表立って言えなかったことを、国政の政治家、しかも共和党の大統領予備選候補者という立場の人間が堂々と言い放ったことは、アメリカ社会にとってショッキングな出来事だったと言え るでしょう。
ご想像の通り、ポール氏のこの発言は、アメリカ中で物議を醸しました。「なんとけしからん政治家か」「共和党の考え方を逸脱している」「愛国心のない政治家に大統領候補の資格はない」といった誹謗中傷と、まったく逆の「よくぞ言ってくれた」「真実を語る政治家は彼だけだ」と賞賛する声とが入り交ざっていました。いえ、おそらく前者のほうが多かったでしょう。
ちなみに、討論会では、ポール氏の共和党への忠誠心についても次のような質疑応答が交わされています。
質問者:「共和党支持者たちの中には、あなたには党への忠誠心がないのではないか、つまり、いづれ共和党を離党して第3政党から立候補し、共和党に不利となる活動を行うのではないかという懸念がありますがいかがですか?」ポール氏:「私の最大の懸念は、そのようなことをいう人々は、共和党の理念に対する忠誠心がないのではないかということです。つまり、保守であり、適正財政であり、小さな政府であり、個人の自由という理念です。私は第3政党から立候補するつもりはありません。今の共和党は、共和党らしく振舞っていないことが問題なのです」
共和党予備選は、2008年3月には事実上マケイン氏の勝利が固まり他の候補者たちが撤退していく中、ポール氏は6月までキャンペーンを張り続けました。そ のときに、ポール氏は次のように述べています。
「もし、票を集めるためだけにキャンペーンを続けるなら、それもひとつだが、国の将来のためにアイデアと影響力を広めるためにキャンペーンを続けるなら、それに終わりはない」。
主流メディアは、共和党政治家としては極めて異色のポール氏を異端児扱いし続け、大統領候補でありながら本気で取り扱われることはありませんでした。やがてメディアの注目は、共和マケイン対民主オバマの決戦に移っていったわけですが、今から5年も前の2007年にポール氏がアメリカ社会に投げかけた小さな波紋は、以後少しずつ広がっていったのです。
次回につづく・・・
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